「君が此処に居るという事は、何か困っている事があるのでしょう?」
胡散臭い笑みを貼り付けて、どこかしら南国の果実を髣髴とさせる髪型の男が言う。
僕はどうにもそいつの笑顔を好きになれなかったけれど、自分一人ではどうにもできないって解っていたから、素直に頷いた。
左右違う色の瞳の男は、探偵だった。
オーダーメイド・ラストダンス...
僕は、部分的に記憶を失っているらしい。
名前とか、自分が何をしていたのか、とか……そういう肝心なものは何一つ覚えてなくて、でも僕の傍にいてくれた人の事はしっかり覚えてるんだ。
その人に会ったら、僕は記憶を取り戻せるかもしれない。
男は僕の言葉を聞いて、隣にいたガラの悪そうな男と眼鏡の男に今しがた書いていたメモを渡した。
「わかりました。僕が必ず、その人を見付けてあげましょう。」
「ほんとに?」
「はい、僕は探偵ですから。基本的に、どんな依頼も断らない主義です。」
怪しそうだけど、取り敢えず頼んでみよう。
そういえば、僕はお金持ってたかな。
「お金は後払いという決まりなんです。」
それなら良かった。
記憶が全部戻ったら、きっと僕が住んでいる場所も解るし、そしたらお金も渡せる。
僕は、男と同じ髪型をした女の子と共に、探偵事務所を後にした。
きっとすぐに見付かるから、それまで散歩でもしていたらどうですか、と言われたからだ。
「……いいんですか。彼、全く自分の正体に気付いていませんよ。」
「どの道、わかる事ですから。それにしても、どんな運命の悪戯なんですかねぇ……。」
オッドアイの双眸が、切なげに揺らぐ。
その眼差しの先にあるのは、古ぼけた一枚の写真だった。
(続く?)
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