「まった、すごい格好してんなー」
文化祭のクラス出店で、喫茶店をやるというのは聞いていた。
飲食店が出来るのは、三年生だけなので、今年も全クラスが焼きそばやらフランクフルトを売っている。
けれど、何故か藤田は今日までその話題を避けていた。
文化祭前日―最終チェックの為に全校生徒がばたばたとしている中、合唱部の出展のミュージカルで貴族役を演じる彼女は、スーツのまま、こっそりと藤田のクラスへと足を運んだのだ。
そして今、藤田が頑なに避けていたその原因を目の前にしているわけだが。
「わ…笑いたいなら笑ってください!!遠慮はいりません!」
「遠慮って……、まあ、正直ドン引きだけど」
178センチの男のメイド服―これはきつい。
ご丁寧にヘッドドレス、真っ白なフリルに黒のドレス。
女装喫茶とは……、企画としては面白いけれど。
「お、俺嫌だって言ったんですよ!?でも、でかい男がやる方が面白いだろうって!」
漆黒の瞳を潤ませて、今にも泣きそうだ。
「あー……、まぁ、面白い、けど」
「笑えばいいじゃないですかー!」
「うっせー!落ち着け!」
クラスメイトも何だか微笑ましい眼差しで自分達を見詰めているし、正直居心地が悪い。
スーツ姿の自分と並べば、何ともちぐはぐな主従関係を模っているじゃないか。
……尤も、あの不憫野郎が見たなら、狂喜乱舞でもしそうだが。
みっともなく文句を並べる藤田の、胸元に結ばれたリボンをぐっと引き寄せる。
「さ、沢井さんっ?」
困惑する彼を余所に、
「……可愛いよ、圭一」
合唱部で鍛えたアルトでそっと囁けば、
「な………っ!!!?」
完熟トマトみたいな、奇妙なメイドが一人。
(……生娘か、てめーは)
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