「おはようございます、芭蕉さん。」
「おはよう、曽良君。」
家が隣同士という事もあって、曽良が担任である芭蕉と共に登校する事は珍しくない。
何時もは非常に厄介な銀髪の子供がいるのだが、今日は日直で普段より早く家を出たらしい。
マンションから学校まで、徒歩で十分程度。その僅かな時間が、曽良にとっては何よりも貴重な、芭蕉を独占できる時間だった。
賑やかな校門を通り過ぎると、見慣れた金髪と後頭部(こう表現するのは些かおかしいかもしれないが、その人物に関してはどうしてもその部分に目が行ってしまうのだから仕方がないだろう)。
「竹中先生、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
胡散臭い爽やかさを振り撒いて(少なくとも、曽良にはそう見える)挨拶を返すその男は、この学園の保健医だ。
明らかに人外である事を主張する後頭部を、指摘する者は居ない。彼という存在そのものが謎すぎて、もう誰も突っ込みを入れないのだ。
そもそも、芭蕉が学生の頃から此処で教師をしているというのだから、潔く未知の生物を結論付ける方が手っ取り早い。
人間は、理解に至らないものをどこかで拒む習性があるけれど、しかし曽良が竹中という男に対して抱く嫌悪感は、その類ではなかった。
「……竹中先生?」
徐に、男の手が芭蕉の額を覆い隠す。
否、この行為は恐らく……。
「微熱があるな。」
咎めるような視線を寄越し、はっきりと呟く。
「え?」
驚いたのは、曽良も同じだ。
体調を崩しているようには見えなかったから。
しかし、竹中がわざわざこんな嘘を吐く必要もないだろう。
「確か、一限は古文なかっただろ。保健室で休むといい。」
ここで大人しく帰れと言わないのは、妙なところで頑固な芭蕉の性格を知っているからである。
「これくらい大丈夫ですよ…、それに、テストの採点しないと……。」
どうにか笑って誤魔化そうとする芭蕉に、しかし竹中はその涼やかな双眸を細めた。
そして恐ろしいくらいに綺麗な笑顔を見せたかと思うと、頼りないその肩にぽんっと手を置く。
気安くその人に触るな、と言いたいけれど、曽良にはそんな権限はなく、そして確実に蚊帳の外に置かれている自分の存在に苛立った。
「芭蕉、言う事を聞かないと……、歓迎会の時のお前の写真、閻魔に見せ」
「謹んで休ませていただきます!!」
脅し文句を言い終わるより先に、芭蕉が叫んだ。
この男は嫌いだ。
自分の知らないものを知っている。
自分では気付けなかったものに、簡単に気付ける。
何時だって触れたいと願っているその髪を、簡単に撫でられるのだから……。
...動画で、「竹芭←曽とかどうですか?」というコメントを戴けたので。
こんな感じかなーと練習。
ラジオでも言ったのですが、私、芭蕉さんが敬語使うのが好きみたいです。
学パロでは、竹中さんは黒くないです。曽良君の邪魔をしようとは思ってません。PR