異質だと蔑むか。
愚かだと嗤うか。
自身の輪郭すら危うい暗闇に、赤い紅い灯火が一つ。
それはあまりにも弱々しく、何度も何度も風に揺られては、健気に獣の内側をあたためていた。
「あなたはこれを、禁忌の交わりだと感じますか?」
真っ白なシーツに溺れて、指先を絡め合う。
白銀の糸がはらはらと降るその下で、マラカイトグリーンの双眸が微かに細められた。
誰がこの男の、こんな貌(かお)を、こんな不安を融かした声音を知っているだろう。
自分だけだという優越感は、しかし現状では多少無粋に思われた。
銀色の獣は妖(あやかし)で、左手に鬼を宿した彼は、それでも人でしかなかった。
「怖いのか?」
その問いに、頷かれるのが。
抗えようのない未来を迎えるのが。
四百年という長き時を生き、渇望などなかった。
更なる力を得る事は、願いとは異なる欲求だ。
その延長線上で出逢った、人よりも妖に近い身でありながら、人である事を幸福とするそのいきもの。
強く儚いその灯火に、気が付けば魅せられていた。
「…怖い?これが、恐怖というものですか?」
わからない、と男は零す。
外観は立派な大人だというのに、その仕種や言動は時折生徒達よりも幼くて。
頭を撫でてやりたいと思ったけれど、そんな事をすればきっと機嫌を損ねてしまう。
「大丈夫だよ。」
その代わりに腕を伸ばして、ゆっくりと抱き寄せる。
触り心地の良い銀髪の感触に、自然と溢れるのは小さな笑い声。
「人を愛するってのは、呪いとか魔法みたいなもんだ。本人には、どうすることもできない。」
「…どこかで聞いた言葉ですね。」
「おお、研究熱心だな。」
深緋(こきひ)の瞳に、穏やかな色が滲んでいく。
「だから、他の誰かが間違ってるとかおかしいとか言っても、俺達がこの魔法から解けない限りは、どうにもならねーってこと。」
結果論だろう、と苦笑にも似た響き。
ああ、何時の間にとらわれた?
たった一つの言葉で救われるなんて。
闇は漠然と広がったままだというのに。
あなたは、どんな時でもその小さな光で導いてくれるから。
「……この私にそんな魔法を掛けるなんて、恐ろしい魔法使いがいたものですね。」
「俺に呪いを掛けた悪魔は、とんだ物好きだけどな。」
人は暗さの中にジッとしていられるものではない。
暗い中に火をともそうとするものである。
人生の火は愛情に外ならない。
※強制終了(このままだと確実に18禁入るorz)
...勿忘草さん、私がやるとこんな感じです。
きっと何時までも、狐さんは「先生」って呼ぶんだと思います。
機会があったら、ちゃんと最後まで書き上げて、サイトに載せたいです。
最後の言葉は、宮.本.常.一氏の『萩.の花』から。PR