「からたちー!」
淡い桜色を纏った少女が、銀髪の青年の後を追う。
ゆっくりと振り返った彼の前髪には、銀とは反する綺麗なオレンジのメッシュが入っており、動きに合わせて微かに舞った。
そして何故か頭上にちょこんと乗っている黒猫。
「どうした、ほのか?」
メッシュと同色の瞳を穏やかに細め、自分に駆け寄ってきた少女を自然な動作で抱き上げる。
愛らしい姿によく似合うワンピース。
もう一匹の黒猫が、青年の足元で小さく鳴いた。
「きょうね、おともだちできたんだよ!」
小さな両手を精一杯に広げて、その喜びを身体全体で表現する少女。
「そうか、今度紹介してくれるか?」
「うん!」
柔らかな頬をうっすらと色付ける。
穏やかな昼下がり。
桜のように淡い色彩と、けれどひだまりのようにあたたかい愛し子。
青年―枳は、今ここにある他愛ない日常を……けれど何よりも尊いものと思い、触れる小さな掌に瞼を閉じた。
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